建設ロボット研究連絡協議会ホームページ

会長挨拶

中央大学 教授 大隅久





ご挨拶
建設ロボット研究連絡協議会会長
中央大学 教授 大隅 久

 2025年度より,建設ロボット研究連絡協議会会長を仰せつかりました.大役ではございますが,委員の皆様と力を合わせ,円滑な運営を心掛けてまいりますので,ご支援のほどよろしくお願い申し上げます.

 さて,昨今の日本では労働生産人口の減少に伴い社会のあらゆる場面で人手不足が深刻化しています.この問題に対処するため,作業のロボット化への取り組みも数多く行われていますが,ロボット導入には課題も多く,なかなか期待通りには進んでいません.建設分野においても,無人化施工や,ドローンを利用した測量,点検等では作業の効率化が着実に進んでいる一方,それ以外については,実用化のレベルに到達しているものはまだまだ少ないのが現状です.

 建築作業のロボット化の難しさは,作業の種類が多く,そして大空間の移動が必要な点にあります.このためロボットには,自律で移動し,様々な作業を単独で遂行することが求められます.個々の作業を指定すれば,それを人間以上に効率的に遂行できるロボットはありますが,一台のロボットが現場で移動しながら複数の作業を遂行するには,ロボットシステムがコスト的に見合ったものとならないと導入には至りません.これまでロボットは単純作業が得意な一方,技能の求められる作業は人間にしかできないというイメージで捉えられてきましたが,実際には,熟練技の物理的意味が解明されればそのロボット化は比較的簡単に可能となる一方,現場での移動,荷物の積み込み等,誰にでもできることが,ロボットには困難となっています.

 ロボット化をこれから進めて行く上では,利用頻度が低く,しかも求められる作業の種類が多い用途に対して,コスト的制約もある中でどのようにロボット化していくのか,についての議論も必要です.このためには,多くの作業に共通するロボット技術を洗い出し,業界の共通課題として開発していくことが重要です.例えば,課題の1つである段差環境での移動技術に関しては,近年実用的な汎用の四脚ロボットが登場したことにより,建築現場での巡回点検や物品の搬送等への利用の可能性が飛躍的に高まっています.また,ヒューマノイドロボット,物理AIの進展等,建設ロボットを取り巻く環境も少しずつ変化の兆しが見えてきました.

 また,作業者とロボットの特性の違い,ハードウェアの限界の存在する現状では,これまでの人手作業をそのままロボットで代替するというアプローチには,コスト的な観点等からの限界があります.自動化の進んだ製造業における自動組み立てラインの設計では,“組立の自動化は製品設計から”,という思想があり,ロボットが組み立てやすい設計を心がけること,また,設計変更による工程の削減を積極的に検討すべきとの指摘がされています.建築物は一品物で,ニーズに合わせた設計ではその自由度も限られたものとなりますが,今後は3Dプリンタの利用による工程の削減等,工程の見直しに対しても新しい技術の積極的な活用が期待されます.

 AIや要素技術の進歩に伴いロボット技術自体も近年大きく進展しており,建設に利用可能な新たなロボット技術も今後益々増えていくものと思われます.建設ロボット研究連絡協議会主催で毎年開催される建設ロボットシンポジウムでは,多くの建設に携わる企業,ロボット研究者がそれぞれの分野での現状,成果に関する課題や最先端の開発技術に関する情報が発信,共有され,建設とロボット技術の大きな架け橋となっています.これからの建設ロボットの発展に大いに期待すると共に,本協議会が将来の建設ロボット普及と発展の一助となることを期待しています.


2025年7月